涙は黄色く光った

それは、幻想的な光景でした。


℃-uteが「YES! しあわせ」を歌い終わり、右手人差し指を天に向けて「フゥー!」と叫ぶと、間髪入れずに「都会っ子 純情」のイントロが流れ出したその刹那、客席が黄色の光に包まれたのです。いや、包まれたというより客席が黄色の光を放ったと言った方が良いのかもしれません。梅田えりかの誕生日を祝う為の光は、瞬く間に客席全体を黄色く染めたのです。
有原栞菜が喋る台詞を聞きながら、梅田えりかはこれを見て手で顔を覆いました。それは、こぼれる涙を押さえる為なのか、それとも涙に濡れる自分の顔を観客に見せたくなかったからなのか。「都会っ子 純情」のワンコーラスは殆ど顔を隠したままでした。しかし、エレガントな動きと賞されるそのダンスは全く輝きを失わず、むしろ輝きを増しているようにも見えたのです。決してこの楽曲では主役ではない梅田えりかですが、僕はこの時彼女から目を離す事が出来ませんでした、いや、むしろ自然と彼女の姿を追っていたように思えます。


都会っ子 純情」を歌い終わり(最後の台詞を言うべき有原栞菜も思わず自分の役目を忘れてしまっていたようでした)、次の瞬間、耳を疑うこの調べ。
それは、「ドドンガドン音頭」でした。


話はちょっと前に遡ります。
梅田えりかは、憔悴していました。今回のイベントでは、キューティーカラーゲームというゲームがあり、勝者は特別に3rdアルバムから自分の属する小ユニットの曲を歌えるという特典がありました。また、「都会っ子 純情」で普段矢島舞美が喋っている台詞を任せてもらえるというオマケもありました。
これまで4回イベントをやって来た中で、勝者は矢島舞美が2回、有原栞菜が1回、そしてこの日の1回目イベントでは中島早貴が勝利し、この時点で「ドドンガドン音頭」以外の3曲は全て歌われていたのです。歌っていないのは自分だけだ、期待してくれているファンの為にも最後は絶対に勝たなければ、そんな使命感があったようです。その執念は、休憩時間にマネージャーと一緒に色とそれに対応するものの表を作って勉強していたというから並々ならぬものです。
しかし、それだけの準備をして臨んだラストチャンス。梅田えりかは明らかに緊張していました。勝たねばならぬという重圧…彼女はあっさりとそれに屈してしまったのです。
しかし、梅田えりか以外のメンバー6名は密かに計画を練っていたのです。すなわち、
「最後にドドンガドン音頭をやろう」


突然の出来事に混乱する梅田えりか、何とか「ドドンガドン音頭」の前口上をこなしたものの、いざ肝心の歌となると声が出て来ません。出てくるのはただただ涙、涙…。嗣永桃子夏焼雅も駆けつけますがどうにも歌えません…代わりに鈴木愛理が遠慮がちに歌っていました。その後、矢島舞美梅田えりかに近寄り、肩を抱きながら何やら囁いたように見えました。そして、矢島舞美から「皆さん一緒に歌ってください!」と声がかかります。
梅田えりかは、サビに入る直前のかけ声からようやく声を出す事が出来、その後はしっかりと最後まで歌い切りました。
最後のMCでは、「びっくりして心臓が止まるかと思った」とおどけた梅田えりかでしたが、その目には確かに黄色く光る涙があったように見えました。
MCの流れで、何となく矢島舞美から℃-uteメンバー全員からそれぞれコメントを言おうという提案。おそらく打ち合わせはなかったと思われますので、最初の中島早貴から既にぐだぐだでした。一瞬、誰かの卒業公演でのセレモニーかと錯覚しそうになりましたが、そう思った瞬間、梅田えりかがこう言いました。
「何かこれじゃ、私辞めちゃうみたいじゃん。私はまだまだ居るよ。」
何だかこのひと言で場の空気がリラックスしたような気がしました。℃-uteメンバーの言葉の温かかったのですが、それを受け止める梅田えりかの大きさ、温かさがすごく伝わって来て観ている我々も温かい気持ちになるセレモニーでした。
会場全員でハッピーバースデーを歌ったり、梅田えりかからは17歳の抱負として、「これからはどんどん℃-uteを引っ張って行きたい!」という力強い、そして頼もしい決意を聞いたり。
本当に素晴らしい聖誕祭でした。そして、どんな時でも℃-uteは最高だったのです。